宵の口

今日はバレンタインデー。
今頃彼はどうしているんだろう?。
私は悔しさに爪を噛む。

しかも今日は金曜日。
昨晩から降り始めた雪が積もりだして、今夜はきっと交通網も麻痺してしまうだろう。
私はうなだれる。


どうしたって私の負け。
きっと彼と彼女は今日の約束を交わしてる。
きっと今夜ふたりは離れない。

多分しゃれたイタリアンかなんかで乾杯をする。
食前酒のグラスにはシャンパンの泡がはじけてる。
お洒落な彼女はシャンパンベージュのニットを着てる。

あの黒との横縞模様のもの。
悔しいけど彼女の肌に溶けるようによく似合う。
そうして彼女はわざと酔いつぶれる。

降り積もる雪とともに麻痺していく首都圏の交通網。
天候までが彼女の味方。
「これじゃあ今夜は帰れない」。

彼の方にも好都合。
で、ふたりは上へと昇る。
どちらが予約してあったのかは、知らない。

高層階から見下ろす東京の夜景は、にょきにょき生えた高層ビルの明かりで美しい。
階下でまたたくネオンサインのけばけばしさも、ここまでは届かない。
ましてやこの純潔な雪化粧。

ふたりの夜を清浄に灯し、祝福してくれるかのように。
私の頬に一筋の涙が伝う。
失った時は取り戻せない。

時間は前へ前へと進むのだから。
そして彼女の背後に近づく彼。
彼女はこういうだろう。

先にシャワーを浴びていい?と。
夜は始まったばかり。
The night is still young。

まだ宵の口。
「僕も飲み過ぎたな」とあなたは口にする。
酔いを言い訳にふたりは始まった。
わたしの時と同じように。

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