宵の口

今日はバレンタインデー。
今頃彼はどうしているんだろう?。
私は悔しさに爪を噛む。
しかも今日は金曜日。
昨晩から降り始めた雪が積もりだして、今夜はきっと交通網も麻痺してしまうだろう。
私はうなだれる。

どうしたって私の負け。
きっと彼と彼女は今日の約束を交わしてる。
きっと今夜ふたりは離れない。
多分しゃれたイタリアンかなんかで乾杯をする。
食前酒のグラスにはシャンパンの泡がはじけてる。
お洒落な彼女はシャンパンベージュのニットを着てる。
あの黒との横縞模様のもの。
悔しいけど彼女の肌に溶けるようによく似合う。
そうして彼女はわざと酔いつぶれる。
降り積もる雪とともに麻痺していく首都圏の交通網。
天候までが彼女の味方。
「これじゃあ今夜は帰れない」。
彼の方にも好都合。
で、ふたりは上へと昇る。
どちらが予約してあったのかは、知らない。
高層階から見下ろす東京の夜景は、にょきにょき生えた高層ビルの明かりで美しい。
階下でまたたくネオンサインのけばけばしさも、ここまでは届かない。
ましてやこの純潔な雪化粧。
ふたりの夜を清浄に灯し、祝福してくれるかのように。
私の頬に一筋の涙が伝う。
失った時は取り戻せない。
時間は前へ前へと進むのだから。
そして彼女の背後に近づく彼。
彼女はこういうだろう。
先にシャワーを浴びていい?と。
夜は始まったばかり。
The night is still young。
まだ宵の口。
「僕も飲み過ぎたな」とあなたは口にする。
酔いを言い訳にふたりは始まった。
わたしの時と同じように。

角度が違うバレンタインデーの風景

どうしてバレンタインは女性から男性への愛の告白の日だろう。
男性にだって、女性の様に大々的に告白できる日があればいいのに。
そんなことを昔から考えていたけれど、私が生きてきた30年間、待ち望んだ「男性からの告白日」などはできていない。
あぁ、誰か考えてくれないのかな。

例えば、大手デパートの経営戦略みたいな部の人が「男性のためのバレンタインデー」みたいなものを。

でも、そうやっていても、2月になればいろんなお店で手作りコーナーやラッピングコーナーが何となくチョコレートの中にいるような甘い雰囲気に漂い始める。
実は幼稚園に入園した息子が去年、チョコレートを7個、もちろん義理チョコだらけだったが、いただいて帰ってきた。
そこからが大変。お返し地獄の始まりだった。

女子は心をこめて?作る手作りチョコをくれるが、男性は果たして相手に何を返せばいいのか。今まで自分が女性として生きてきたくせに、全く恋愛経験が上がっていないのだと反省。
義理の母からは「あなたのお返しの技量で、来年この子(息子)がまた同じ子からいただけるかが決まると言っても過言ではないのよ。」とプレッシャーをかけられる。

今年流行りの「倍返し」?ではないが、しっかりと計画的にどの子が何を好きかをリサーチ。あぁ、私がきっと今まで何も考えずに義理チョコを渡した男の子の母親はこんな苦労としたのだろうか…とまたまた反省。

たかが幼稚園児。されど幼稚園児。本命には本命返し?、義理には義理返しをするのが男としてのマナーかな。息子の恋愛の第一歩になるかもしれない。息子の好きな子がとろけるような逸品を今からしっかり考えよう。大人になってからも、息子が初恋の思い出が美しく、楽しかったものであるように、初恋の裏に隠された母親の苦悩などがまさかあるとは思いもしなかった。